このプロジェクトを開催する5つのまちが運営するブログです。

2007年春のある日、東京、宮城、山形、岩手、北海道でまちの音を採集する目的で有志が集まった。砂利道を踏む足音、鬼ごっこをする子供達、ラーメンをすする音、新幹線のアナウンス、いつもは気にもかけない様々な音に耳を傾け、選択し、マイクでひろっていく。
7月に全国5地域をツアーするピアノコンサート『夏の旅』ではアーティスト向井山朋子がこのまちの音を編集し、『即興曲』を中心とするピアノ音楽のパートとして編み込んで新しいシューベルトを発表します。

   ◆ 各地域の コンサート情報はこちらから ◆

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 旅に出るといつも考えることがある。
 知っている、ってなんだろうって。
 知っていたつもりだった事柄が、一瞬のうちに無効になったり、
 知らない場所の知らない人たちに妙に親しみを覚えたり。

 誰もが聴いたことのあるシューベルトの即興曲に、そこに住む人たちが
 集めた街の音のサンプルを織り込んでいく。
 それは東京から始まって、北に進む旅とともに少しずつ形を変え続ける。
 ゆっくりと、私達が「知る」まえに。
                                        向井山朋子




ピアニストによる作品の創造~向井山朋子の行方をめぐって (4)
2007年 06月 16日  
文  藤井明子 (愛知芸術文化センター愛知県文化情報センター主任学芸員)

4、向井山朋子が立つ位置

 こうして2005年以降は現代美術の展覧会でも作品を発表する向井山だが、その背景には、現代の音楽の多様化とともに、現代美術が作品の非常な多様さを許容しているという状況がある。これについて、長谷川祐子は、20世紀から21世紀にかけて、美術館は、モノを見せるための「展示空間」からインスタレーションやパフォーマンスをみせる「環境的空間」へ、そしてさらに非物質的な<関係を見せる>空間へと変貌しつつあり、特に1990年代後半から、コミュニケーションをキーワードとして、観客参加やリモデル化された日常体験の追体験という形式を取り、エンターテイメント化された多様な作品を生み出す現代美術の作家たちが多数現れたと述べている。〔長谷川裕子、2003、38-41頁〕こうした現代美術の状況と、向井山が現在立ちつつある地点は見事に交差する。向井山はピアニストとして演奏者(作品の創り手)と観客(鑑賞者)とのコミュニケーションのあり方や、現代社会を生きる生や性について表現しようとした結果、美術作家たちとは逆の方向~エンターテイメントの側から現代美術の領域へと踏み込んだと言えるだろう。

 そしてこれまで本稿でまとめてきた向井山の活動の変遷は、一つの手法に縛られることなく、自分の表現したい内容に合わせて表現手段を変えていく現代美術作家たち、とりわけ女性の現代美術作家の経歴に共通する点がある。

 たとえば、やなぎみわは、工芸科専攻の美大学生時代に繰り返し伝統的な作品製作の手法の訓練を受け、社会人経験を通じて社会に対して自分自身が感じる問題点を発見し、その結果最も有効な手法として写真という形態を選択した。そして、現代に生きる女性であるということを作品制作の原点として、デパートのエレベーターガールの制服を着せた女性たちを様々な空間に配置した写真シリーズ「エレベーターガール」や、20代の女性たちが五十年後の自分を想像して未来の老女たちを写真に撮る「マイグランドマザーズ」、現在70~80歳の老女たちに自らの祖母について語ってもらう映像作品「マイグランドドーターズ」などを発表している。〔岡部あおみ、2003、266-278頁〕

 向井山も、学生時代から続く、ピアノを演奏するという長い繰り返された訓練を経て、社会と自分との間に横たわる問題点を捉え始めたとき、現代に生きる女性であるということを原点とする問題に取り組もうとしているのではないだろうか。「社会状況から遊離したニュートラルな『芸術家』」〔鈴木杜幾子ほか編著、1997、378頁〕がいるわけではない。音楽家とて例外ではないはずなのに、私たちは、ピアニストというものは、(本人を含めて)作曲家が作った作品や即興での演奏を行い、現代社会の喧騒や煩雑さからは切り離された時空間を創り出すという先入観をもちがちなため、彼女が「変わった」ピアニストと思ってしまうに過ぎない。もちろん音楽家はそうした、楽しい、あるいはエネルギッシュな、あるいは癒される時空間を創出するが、そればかりではないのだ。向井山は、ピアノの演奏を通じて自分の作品を創る可能性を開いたと言えよう。

 いずれにせよ彼女の活動の中心にはピアノがあり、それを弾く彼女の身体がある。2007年取り組んでいる新しい作品「show me your second face」は、香りと映像のプロジェクトで、ピアノとピアニストと衣裳のコラボレーションだというが、この作品について尋ねたとき、彼女の次のように答えた。


「ピアノは私にとって外に向かって投げかける、うちに向かって語りかける力強く、同時にしなやかな武器のようなものです。」〔2007年1月に本稿のために筆者がEメールで行ったインタビューより〕


 向井山朋子は、さらに2009年を目指して、12,000枚のドレスと世界中の女性と月経血を使うインスタレーション・プロジェクト「wasted」(注8)に取り組み始めたという。「女性アーティストとして今しかできないことだと思ってはじめた」というこの作品は、紛れも無く、観客一人一人に語りかける美しい作品となることだろう。こうして向井山朋子は現代の芸術の新しい地平の一つを切り開いていくはずだ。音楽、美術というジャンルにとらわれることなく、今を生きる女性アーティストとして。





(1)http://www.tomoko.nl/index.html

(2)詳細は、『現代音楽家シリーズ3」72-78頁参照

(3)可児市文化センターの「for family」では、前半に向井山と交流のあった市民との共演があり、休憩を挟んだ後半が向井山のコンサートだった。ここでは後半部分を指している。

(4)その後向井山は「sonic tapestry II」は「haar/haar」という作品の中の音楽部分と位置づけ、現在は「haar/haar」というタイトルで統一している。本稿ではこの作品タイトルの変化についても言及するが、向井山の活動の遍歴を追うため、2005年に開催された公演タイトルとしては「sonic tapestry II」を用いる。なお、「haar」とはオランダ語で「髪」、そして同時に「彼女の」という意味。

(5)アンヌのソロ・ダンス作品。無音から始まり、アンヌが子どもの頃魅了されたというフォークの女王でベトナム反戦運動で知られるジョーン・バエズの1963年のライブでの「Once I Had a Sweatheart」の歌声に共振して踊る。最後は戦争の映像が映し出される。

(6)当時のパートナー、ウライとのパフォーマンスで、万里の長城の両端にウライとアブラモヴィッチが分かれ、そこから40日間かけて歩き、長城の真中で出会い、そのまま永遠に別れるというもの。私生活上の別れをそのまま作品として形にした。

(7)たとえば、キャロリー・シュニーマンのパフォーマンス「体内からの巻物」(一九七五)。

(8)向井山朋子は2009年の「wasted」発表に向けて、作品創作の協力してくれる世界中の女性を現在募集している。あなたの体の一部が作品の一部として取り入れられる。詳細はhttp://www.wasted.nlをご覧ください。



参考・引用文献

水野みか子、2007、「1990年代の日本のサウンドアート」、『リア』No.16、リア制作室

渡辺裕、1990、『聴取の誕生 ポスト・モダン時代の音楽文化』、春秋社

藤井明子編、2005、『現代音楽家シリーズ3』 愛知芸術文化センター企画事業実行委員会

向井山朋子、2005、「sonic tapestry II」上演当日に配布したパンフレット 

横浜シティアートネットワークのホームページ上に掲載された向井山朋子インタビュー
http://www.ycan.jp/archives/2005/11/can_you_hear_me.html

リンダ・ニード(藤井麻利・藤井雅実訳)、1997、『ヌードの反美学 美術・猥褺・セクシュアリティ』、青弓社

長谷川裕子、2003、「アヴァンギャルドと美術館:混在のヘテロトピアスに向けて」、『アール issue 02/2003』、金沢二十一世紀美術館

岡部あおみ、2003、『アートと女性と映像―グローカル・ウーマン』、彩樹社

鈴木杜幾子ほか編著、1997、『美術とジェンダー非対称の視線』、ブリュッケ

スーザン・マクレアリ(女性と音楽研究フォーラム訳)、一九九七、『フェミニン・エンディングー女性・ジェンダー・セクシュアリティ』、新水社

小林康夫・松浦寿輝編、2000、『表象のディスクール⑥創造 現場から/現場へ』、東京大学出版会


★本稿は、『日本文化の人類学/異文化の民俗学』(仮題、2007年夏発行予定)のために執筆したものである。
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by dahadahay | 2007-06-16 00:30 | 現在進行形の向井山朋子
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